第92章 上弦ノ壱
悲鳴嶼、不死川両名の猛攻により、黒死牟は遂に体が崩れた。意外な事に、黒死牟は猗窩座の様に首の弱点を克服する様子は見せなかった。
不死川は、意識不明の重体だった。
宇那手は、時透の傍によると、髪の毛を切り、形見として守り袋に入れた。
「⋯⋯火憐。助かった。お前は間違い無く、今代最強の柱だ」
悲鳴嶼の言葉に、宇那手は俯いた。
「柱が、欠けました。一番幼い柱が⋯⋯」
「思い詰めるな」
悲鳴嶼の言葉に、何も返す事が出来ぬまま、宇那手は、玄弥の傍に膝を着いた。
「ごめん⋯⋯ごめんね⋯⋯」
その声で、不死川が意識を取り戻した。彼は、崩れ掛けている玄弥の姿を見て、絶叫した。
「うわああああ!!! どうなってる畜生ッ!! 体が⋯⋯何で鬼みたいに体が崩れる?! ああああ!!! クソッ!! クソッ!!」
彼は玄弥の体に縋った。玄弥は、指一本動かせずに、唇を震わせた。
「兄⋯⋯貴⋯⋯」
「大丈夫だ! 何とかしてやる!! 兄ちゃんがどうにかしてやる!!」
「⋯⋯兄⋯⋯ちゃん⋯⋯。ご⋯⋯めん⋯⋯」
玄弥は最後の力を振り絞って、言葉を続けた。
「あの⋯⋯時⋯⋯兄ちゃんを⋯⋯責めて⋯⋯ごめん⋯⋯。迷惑ばっかり⋯⋯かけて⋯⋯ごめん」
「迷惑なんかひとつもかけてねぇ!! 死ぬな!! 俺より先に死ぬんじゃねぇ!!」
慟哭する不死川の横で、蒼白な顔で宇那手は薬を組み替えた。
(血鬼止めを使えば、即死してしまう。玄弥は鬼の力で生きながらえてる。でも、このままじゃ、鬼として消えてしまう⋯⋯)
宇那手は鬼用の治療薬を使用し、玄弥が想いを伝えられる様、尽力した。