第92章 上弦ノ壱
(月の呼吸、捌ノ型、月龍輪尾)
黒死牟も、応戦せざるを得なかった。宇那手の実力が測れなかった為、全力で刀を振るったが、なんと宇那手は無傷のまま立っていた。それどころか、背後にいた柱たちも、完璧に守り通していた。
(何故だ?! 何をした?! この娘は、筋力も弱い。身体の密度も──)
「日の呼吸、参ノ型、烈日紅鏡」
息をする様に、容易く、宇那手は、最強の呼吸を使用し、技を繰り出した。
(月の呼吸、玖ノ型、降り月、連面)
黒死牟は危機感を覚えつつ、技を放った。最早加減をしている余裕は無かった。
「水炎の呼吸、拾弐ノ型、流炎舞、反転」
(防ぎ切っただと?! 異なる性質の呼吸を⋯⋯簡単に⋯⋯。何の反動も無く⋯⋯)
黒死牟の動揺に、宇那手はほくそ笑んだ。
「もう分かっているでしょう? 貴方は私に勝てない。私は日の呼吸の使い手で、痣者。そして、赫刀を使用出来る」
「小癪な⋯⋯」
(月の呼吸、拾ノ型、穿面斬・蘿月)
それは、考えられない程、広範囲の攻撃だった。しかし、守りの型を極めた宇那手にとっては、対処しやすい技だ。
(水の呼吸、拾壱ノ型、凪)
それでも、今度は流石に全てを防ぎきれなかった。だが、攻撃を喰らう直前、時透が割り込み、宇那手の身体を抱えて間合いの外に飛び出した。
「死なせない! 皆回復した。貴女のお陰で。貴女は此処で怪我を負ってはいけない」
悲鳴嶼も、不死川も、時透も、一斉に黒死牟へ斬り込んだ。
時透は、黒死牟の攻撃を掻い潜る様に踏み込み、胴に刀を突き刺した。同時に銃声が響いた。
玄弥の血鬼術が、黒死牟の動きを止めた。
「無一郎君!!!」
宇那手は、絶叫していた。幼い身体が、黒死牟の全身から突出した刀に滅多刺しにされていたのだ。
「来るな!!」
時透は叫んだ。同時に、彼の刀が赫く染まった。宇那手は、静止を振り切り、時透に駆け寄った。
「許さない!!」
(日の呼吸、陸ノ型、日暈の龍・頭舞い)
やはり日の呼吸は、どの型よりも高威力だった。
宇那手は、時透の手を握った。
「一人じゃない。傍にいるから!」
「⋯⋯馬鹿⋯⋯だよ⋯⋯大好きな⋯⋯姉さ⋯⋯⋯⋯」
時透は、最期の最期に微笑んだ。そのまま息を引き取った。