第92章 上弦ノ壱
上弦ノ壱の気配は、童磨をも凌いでいた。宇那手が、隊士たちを離れた場所に留め、駆け付けると、戦場は既に地獄と化していた。
(落ち着け。順序を⋯⋯)
宇那手は、まず磔にされている時透に駆け寄った。手を握ると、彼は目を見開き、歯を食いしばった。
「⋯⋯助けて。最期まで戦いたい」
「その為に来ました」
宇那手は、時透の肩から刀を抜き、床に下ろすと、止血をした。それから、不死川に近付き、彼を驚かせない様に肩に手を置いた。黒死牟と近距離過ぎて、口を利く事は叶わなかった。それでも、不死川は、宇那手の気配に気が付いた。
宇那手は、冨岡にそうした様に、麻酔を使い、手早く不死川の傷を縫った。
(駄目だ。実弥さんは、無惨とは戦わせられない。⋯⋯無一郎君も。だけど、今夜倒さなければ、また上弦が補充されてしまう!!)
彼女は玄弥に駆け寄った。
「玄弥君。銃の腕は磨いた?」
「⋯⋯火憐さん?!」
「胴を繋ぎます。それから、あの鬼の一部を持って来ます。残酷ですが、貴方は助からない。無一郎君も。でも、だからこそ出来る事がある。貴方はどの様に死にたいですか?」
「⋯⋯兄貴を助けたい」
「持って来た」
時透が、すっかり血色を失った顔で、髪と刀の破片を拾って来た。
続く時透の言葉と覚悟を聞き、宇那手も腹を括った。
その瞬間、悲鳴嶼と不死川が、かなり深い傷を負わされた。
黒死牟は、醜悪としか言い表せない刀を構え直した。
「貴様ら二人を討ち果たしてしまえば⋯⋯残りは容易く済みそうだ⋯⋯」
「一人、忘れていません?」
宇那手は、札を剥がして、姿を見せた。
「二人共、ちょっと休憩ね」
彼女は手負の柱と、黒死牟の間に立った。流石の黒死牟も⋯⋯いや、鬼舞辻の血が濃い黒死牟だからこそ、宇那手の赫刀に背筋がスッと冷たくなった。
「お前は⋯⋯やはり⋯⋯。そうか。猗窩座を討った最後の一撃⋯⋯。あれはお前の技か。お前は、あのお方を裏切った」
「こうなる事は、百も承知で私を傍に置いていたと思いますが。地獄を見せて差し上げます」
(日の呼吸、弐ノ型、碧羅の天)