第91章 上弦ノ弐、上弦ノ参
「⋯⋯すまない」
冨岡は、その場に横になって囁いた。
「参を相手にこの有様⋯⋯。お前に何と詫びたら良いか⋯⋯」
「痣が出たので、上出来です。同時に⋯⋯残念でもありますが」
宇那手は、暗い声で答えた。今夜中に鬼舞辻を殺せなければ、冨岡の寿命は劇的に縮む。
「うん。この子も回復するでしょう。師範として、この子が鬼舞辻と戦う事を許可します。善逸君、猪之助君、カナヲちゃんも。彼らは止めても戦うはずですし。⋯⋯義勇さん、この子達を守ってくださいね」
「分かった」
冨岡は、行かないでくれと叫びたかった。やっと手の届く場所に戻って来た家族を、死の危険に晒したくなかった。
炭治郎の処置を終えた宇那手は、立ち上がり、冨岡に歩み寄ると、額に口付けをした。
「大丈夫! 私はとても強いんですよ。鬼舞辻の隣で、二ヶ月生き延びた。こんな剣士は他にいません」
「ああ。⋯⋯信じている」
「これを」
宇那手は、冨岡の折れた刀の代わりに、甲の時代に打って貰った刀を手渡した。
「水の呼吸に最も合った刀です。重さも、貴方の物と変わらない。きっと、貴方を守ってくれます」
「感謝する」
冨岡は震えた。
「⋯⋯名前を呼びたい。抱き締めたい。お前に救われてばかりで⋯⋯俺は⋯⋯」
「もう行きます。⋯⋯私達が上弦ノ壱を討ったら、北へ向かってくださいね」
宇那手は、その場を後にした。
「あ⋯⋯」
待機していた隊士たちは、宇那手の無事を喜んだ。
「参を討ちました。次へ向かいます。貴方方にお願いします。私が出来る限り消耗しない様、斬れる鬼は斬って欲しい──」