第91章 上弦ノ弐、上弦ノ参
宇那手が部屋に駆け込むと、炭治郎は壁にのめり込み、昏倒していた。冨岡も傷だらけだ。しかし、それ以上に猗窩座がボロボロだった。
彼は既に首を斬られていたが、灰の臭いがしなかった。
(別の何かに⋯⋯なりかけている?)
猗窩座は、満身創痍の冨岡に攻撃を出そうとしなかった。それどころか、自分に向けて腕を振り上げ⋯⋯
「待って!!! やめて!!!」
(水の呼吸、伍ノ型、干天の慈雨)
宇那手の優しい斬撃が、崩れかけの猗窩座の身体を切り裂いた。
「⋯⋯ありがとう」
彼は最期にそう言って、灰となった。敢えて名を呼ばなかったのは、彼なりの配慮だろう。
冨岡は、技の出所を探ろうと、目を凝らした。
「座って」
宇那手は冨岡の両肩に手を置いた。
「もう限界のはず。治療をします。竈門君も」
「⋯⋯いるのか?」
冨岡の両目に涙が溢れた。
「⋯⋯お前なのか?」
「お傍にいます。この空間に何かあった時、貴方が気を失っては危険ですので、局部麻酔で、傷口を縫います」
宇那手は手早く背負い袋を下ろした。流石愈史郎。必要な物は一通り揃っていた。
「二人共、良く頑張りましたね。稽古をつけていたとはいえ、煉獄さんを超えたんですよ?」
「お前は無事なのか?」
「五体満足です。貴方達のお陰で、私は無傷の状態で鬼舞辻と戦える。⋯⋯しのぶさんも⋯⋯痛みを感じず逝けたはずです。助けられませんでしたが⋯⋯」
「っ⋯⋯」
冨岡は、自分の隊服に溢れた雫のお陰で、より一層宇那手の存在を実感した。見えなくとも、確実に、今、傍にいる。抱き締められる距離にいるのだ。
「一度だけ⋯⋯抱き締めても良いか?」
「駄目です。傷口が開きます。貴方達は、しばらく此処で体力を回復してください。⋯⋯全て終わったら、沢山話しましょう」
宇那手は糸を切ると、炭治郎の元へ向かった。其方も酷い怪我だった。
「私は、上弦ノ壱を追います。戦闘に加わるかはその場で判断しますが、あいつを残しておくのは危険なので。鬼舞辻と唯一連携を取って戦える可能性のある鬼です」