第91章 上弦ノ弐、上弦ノ参
宇那手は、駆け足で北を目指した。
(血の臭いがする⋯⋯。二人共⋯⋯どうか無事で)
「っ!!」
背後で息を呑む声が聞こえ、宇那手は足を止めた。
「どうしました?」
「⋯⋯いえ」
「隠さず教えてください」
「ど⋯⋯同期が⋯⋯」
近くの死体の山を、隊士は指した。
「残念ですが、皆、連れて帰る事は出来ません」
宇那手は、息の無い者たちに歩み寄った。
「どなたですか?」
「水流の羽織を纏っている⋯⋯髪の長い女性です」
「⋯⋯」
宇那手は手を合わせ、背負い袋から鋏を取り出すと、髪の毛を一房切り、藤のお守りの中に入れて、泣き出しそうな隊士に差し出した。
「貴方は、必ず生き残らないといけませんね。彼女を、連れ帰ってあげてください」
「貴女ほど⋯⋯優しい音がする柱は⋯⋯いませんでした」
隊士は感銘を受けた様子でお守りを受け取り、大事にしまった。
「⋯⋯ありがとうございます。ありがとうございます!!」
「走りますよ」
宇那手は、抜刀したまま駆け出した。何度も何度も下弦相当の鬼と遭遇したが、全員生き延びた。稽古のお陰もあるが、鬼たちが血鬼術を使いこなせていないのも、救いだった。
(鬼舞辻無惨⋯⋯あの大馬鹿者。あの時、下弦を生かしておけば良かったものを⋯⋯)
「止まって」
宇那手は慌てて指示を出した。
「この先に上弦がいます。私一人で行きますので、此処で待つ様に。戻らなければ、南へ後退しなさい」
「待ってください! 着いていきます!」
「⋯⋯では甲の者は連れて行きます。いますか?」
誰もいなかった。その筈だ。柱が空席なのは、甲の階級で、尚且つ柱の条件を満たしている者がいないからだ。
「これを」
宇那手は、愈史郎の札を隊士達に差し出した。
「もし、私が戻らなければ、この札を貼り、逃げなさい。私が上弦を倒せぬ様なら、鬼舞辻を討つのは不可能です。幸い、この先には、柱がもう一人いる。それでは」
彼女は自身の額に札を貼り、駆け出した。童磨と違い、猗窩座は黒死牟や鬼舞辻に気に入られている。その生死を注視されている事だろう。