第91章 上弦ノ弐、上弦ノ参
「柱か?!」
「柱なのか?!」
桜里が率いていた隊士たちは湧き上がった。宇那手は、刀を少し抜いて文字を見せた。
「水炎柱の宇那手です。隊を分けましょう。丁以上の隊士で、死ぬ覚悟のある者は私に着いて来なさい。階級が低い者は、意思に関わらず、桜里と南へ。鴉の声は無視する様に」
四分の一程度が宇那手の側に着いた。
「これより、便宜上私の隊を一班とします。二班は香川が率いています。桜里の班は三班とします。全員、現場にいる柱の指示を最優先に。それから、愈史郎という隊士の命には必ず従いなさい」
「はい!」
全員が声を揃えて返事をした。訳の分からない状況に投げ出され、突如現れた柱は来正に救世主の様な存在だった。
「さあ、走って!」
宇那手の声を合図に、二つの隊はそれぞれ別方向に走り出した。
「⋯⋯っ!」
角を曲がった所で、宇那手は慌てて足を止めた。下弦相当の力を与えられた鬼が、束になって掛かって来たのだ。
(こんなのいつの間に⋯⋯。そうか、許可を得れば、上弦が血を分け与える事が出来る)
宇那手は、呼吸さえ使わずに、六体程仕留めたが、三体斬り逃した。
焦って振り返ったが、隊士たちは落ち着いていた。複数人で討伐にあたり、誰も怪我人は出なかった。
「言い忘れていましたが、怪我を負った者は戦線離脱させます。私のために、命を懸ける必要もありません。どうにもならない状況になったら、全員、私を見捨てて逃げなさい。背を見せることは恥ではありません。私は誰も恨みませんから」
「⋯⋯貴女の稽古を受けなくて良かったです」
隊士の一人がぽつりと溢した。
「俺はもう、失う物が無い。死ぬのは怖くない。きっと、貴女と長く過ごせば、命を懸けて守りたいと思ってしまった」
「私だけではなく、どの柱も例外無く見捨てなさい。厳しい事を沢山言われて来たでしょうが、柱には、貴方達を守り通す義務があります。数々の特権を享受して来たから。皆、その事は承知しています。行きますよ」