第91章 上弦ノ弐、上弦ノ参
「行って!!」
唐突にカナヲが叫んだ。
「行って!! あの人でしょう?! 炭治郎と、水柱の⋯⋯」
「貴女を独りには出来ません。私は戦います」
宇那手が返すと同時に、襖をぶち破って、猪⋯⋯の被り物を身につけた少年が現れた。
「独りじゃないから」
カナヲは宇那手の羽織りの裾を掴んだ。
「最初から、私がやる約束だった」
「ですが──」
「貴女の家族はまだ生きているから⋯⋯行って欲しい⋯⋯。もう⋯⋯充分稼いで貰ったから⋯⋯。行って!!」
「⋯⋯では、お言葉に甘えて」
宇那手は刀身に手を翳し、踏み込んだ。
(炎の呼吸、奥義、煉獄)
赫刀が童磨の身体を袈裟斬りにした。
「これ、いただいていきますね。後で使うので。流石に喰わないでしょう?」
宇那手は、呆然としている童磨に、胡蝶の刀と鞘を振って見せた。
彼女は再び札を身体に貼り付け、姿を消した。予定の半分以上の時間は稼いだ。猪之助とカナヲの二人なら、弱体化した上弦一匹を斬れるだろう。
鳴女は、まだ童磨との悶着を認識していないのか、宇那手を空間から振り落とそうとはしなかった。
お陰で想定より早く北へ進めた。その途中。
「愈史郎さん!」
「火憐! 無事だったのか!」
「善逸君?! どうしたんですか?! この怪我は──」
「上弦ノ陸を単独で討った。治療済みだ」
「ありがとうございます。これを」
宇那手は、珠世から預かっていた簪を差し出した。
「貴方に渡す様、言われました」
「⋯⋯感謝する。水柱は、恐らく上階層だ。目を撒いているが、まだ半数に届かない」
「健闘を」
宇那手は素早く床を蹴り、上階の手摺りにぶら下がった。登り切った所で、今度は桜里と遭遇した。
「師範!! ご無事だったのですね?!」
「当たり前でしょう。遺書も書いてないのに死ねません」