第15章 協力
夜。全集中の呼吸を続けたまま、眠っている宇那手の横で、冨岡は手渡された本を死んだ目で読んでいた。
(不死川も、甘露寺も気付いたのか?!)
彼は手当てされた宇那手の首筋にそっと触れた。冨岡は無意識にやったのだが、首筋に痕を付ける行為は、相手が自分の物であると主張するために取る行動らしい。
彼は宇那手の姿を思い浮かべ、慌てて視線を逸らした。無防備に寝ているせいで、また手が出そうになる。
宇那手の代から、女性の隊服がより洋風な物に変化したのだが、彼女の体型に合わせて最近送られて来た物は、以前の物よりも丈が短く、足が剥き出しになっていた。
確かに動きやすさを重視するなら、仕方のない事だが、以前胡蝶がとんでもない型の隊服を燃やした話を思い出し、腹が立って来た。何の疑問も持たずに着用している甘露寺も大概だ。
冨岡は呼吸を整え、刀を手にし、窓から庭へ飛び降りた。迷ったり、思考が乱れた時には、剣を振るに限る。
「全集中水の呼吸拾壱ノ型凪」
最も集中力を使う型を使用した瞬間、間合いに誰かが飛び込んでくる気配がした。
冨岡が慌てて剣を引くと、満面の笑みで胡蝶が立っていた。
「冨岡さん。私の屋敷で怪我人を出すおつもりですか?」
「⋯⋯何の用だ」
冨岡は不機嫌に訊ねた。実際にはそれほど不機嫌では無かったのだが、他人からはそう見えてしまう。彼の悪い所だ。
その点を理解した胡蝶は、穏やかに詰め寄った。
「宇那手さんのことです。昼間のお話は非常に興味深かった。でも、話す事を選んでいました。私たちが聞いた以上の事を抱えているんです」