第90章 無限城
「⋯⋯なんというか、血は争えませんね」
妻はともかく、娘も一緒に殺すという思考が、宇那手には理解出来なかった。
「申し訳ありませんが、私は足止めに力添え出来ません。鬼舞辻は、既に全ての隊士の位置を把握しており、有事の際は一斉に無限城へ落とすつもりです。私は、姿を隠したまま、可能な限り、上弦と遭遇した他の柱を救出します」
「分かった。皆お前の姿を見れば、驚く事だろう⋯⋯」
「私の算段では、甘露寺さん以外の全員が、私の無事を認知しているはずです」
「それも、計算していたのか⋯⋯」
「どうやら、お喋りは終わりの様です。行きますね」
宇那手は鼓膜を守る為に耳を塞ぎ、その場を離れた。
数分の後、派手な爆音が響き渡り、屋敷が吹き飛んだ。それとほぼ同時に、体が浮遊し、落下して行った。
(水の呼吸、肆ノ型、打ち潮)
彼女は易々と受け身を取り、異空間へ飛ばされていた。周囲には、一緒に守り切った隊士が倒れていた。
その内の一人に、宇那手は囁いた。
「香川。みんなをお願い。方位磁針と鏡を使って」
「師範⋯⋯?」
「大丈夫。貴方ならやれる」
宇那手は、素早くその場を去った。
しばらく無限城を走って、宇那手は気が付いた事があった。内部の構造は複雑だが、かなり狭い空間である、と。
そこかしこに、落下時に受け身を取り損ねた隊士の遺体が転がっていた。
(捕縛されたのは、あくまで隊士。隠はいない!)
宇那手は、高揚を抑えつつ、柱の気配を探った。
(冨岡さんは炭治郎が一緒。他の柱も、稽古を付けていた隊士が傍にいる。でも⋯⋯しのぶさんは⋯⋯)
恐らく一人だ。
(しのぶさんが⋯⋯しのぶさんを助けなきゃ!! 早く⋯⋯早く──)