第90章 無限城
「幸せになれるでしょうか?」
宇那手は処置を終え、目を伏せた。
「私は許されるでしょうか? 添い遂げると決めた殿方がいながら、化け物に身体を委ねた私が、幸せになれるでしょうか?」
「義勇は⋯⋯君の幸せを願っている⋯⋯。生きて欲しいと⋯⋯」
産屋敷の言葉を聞き、宇那手は憂いを帯びた笑みを返した。
「あの人が私を許してくださるのなら、必死に生きて、死にます。⋯⋯夜明けですね」
彼女は東の空を眺めた。
「戻らなければ。⋯⋯桜里と香川には、鴉の命令を無視する様に指示を出しています。二人には、弱い隊士を鬼舞辻と反対方向に退避させる様、命じてあります。市街地での一斉攻撃については、藤原に指示を出してあります。多少座標にずれがあっても対処可能です。私は⋯⋯柱と共に、鬼舞辻を殺します。必ず」
「火憐さん」
あまねは、実の子供にそうする様に、宇那手をきつく抱きしめた。
「貴女のことは、本当の家族の様に思っています。武運長久を祈ります」
「⋯⋯ありがとうございます。最期まで、お側にいます。姿を見せる事は叶いませんが、すぐ傍にいます」
宇那手は一礼し、屋敷を飛び出した。すぐに琵琶の音が脳裏に響き、無限城に連れ戻されていた。
「見つけましたよ」
彼女は鬼舞辻に刀を差し出した。
「これは、私が最期に受け取るはずだった物です」
「良くやった。産屋敷の様子はどうだ?」
「今にも死にそうでした。延命措置をしましたよ。貴方が殺せる様に」
その発言に、鬼舞辻は顔を引き攣らせた。宇那手はクスリと笑った。
「貴方は案外常識人なのですね。私の行動は狂っているとしか言い様が無いですが、貴方の望む様にしただけです」
「お前は悪くない」
「産屋敷も、同じ様な事を私に言いましたよ。⋯⋯あの人は、殺されても構わないと思っている。妻もです」
宇那手は少し首を傾けて微笑んだ。
「少し、睡眠を取らせてください。今晩は貴方の傍にいます。何が起こるか分かりませんから」