第90章 無限城
(限界だ)
約一ヶ月後、宇那手は腹を括った。
(もうこれ以上は、引き伸ばせない)
鳴女が隊士の八割の居場所を特定し終えたのだ。
「無惨様。一晩⋯⋯いえ、数時間、私に自由をください」
宇那手は、自分の命と引き換えになる事を承知の上で懇願した。
「私一人なら小回りが効きます。此処へ、私を落としてください」
彼女は、一度捜索の済んだ位置を指した。
「暴けないだけで、地理的に、この辺りに産屋敷がいる筈です。私なら、実際に歩いて探す事が出来ます。今、柱は其々の持ち場にいる。並の隊士からなら、難なく逃げられます。万が一見つかっても、私を殺す事は出来ないはず。⋯⋯夜明けまで、あと一時間半です。私にお任せください」
「良いだろう。一度だけ、お前を信じよう。産屋敷が其処にいる証拠を持ち帰れ。あくまで、私が殺す」
「必ず、見つけ出します」
そう答えるなり、宇那手は、暗い藪の中に放り出されていた。
彼女はしばらく、迷うフリをして周囲を駆け回った。
(鬼舞辻の唯一の弱点は陽光だ。夜明けが近い今晩、挑みはしないだろう。⋯⋯一日だけ猶予が出来る)
一時間程時間を潰し、彼女は隠された屋敷の入り口に立っていた。気の毒だが、周囲にいた隠は全員気絶させた。
懐かしい屋敷に踏み込み、土足で産屋敷の寝所に上がり込むと、あまねが起きていた。
「火憐さん⋯⋯」
「限界です。明日の晩、鬼舞辻が此処にやって来る。隊士たちの状況は?」
「竈門隊士が、ただ一人、水柱の元へ辿り着きました。申し訳ございません!!」
あまねは三つ指を着き、深く頭を下げた。産屋敷も目を覚まし、視線を宇那手に向けた。
「⋯⋯ずっと⋯⋯見ていたよ⋯⋯。君の言葉も⋯⋯本心も⋯⋯聞いた⋯⋯。すまなかった⋯⋯。私は地獄に逝く⋯⋯」
「私も地獄へ逝くつもりです。お許しください!! これ以上は隠し通せません!!」
宇那手は膝を着いた。産屋敷は、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう⋯⋯。君が時を稼いでくれたお陰で⋯⋯全て⋯⋯整った。⋯⋯心配ない⋯⋯。今すぐにでも⋯⋯大丈夫だ⋯⋯」