第89章 激怒
「駄目だ。それは出来ない」
愈史郎は、札の交換を拒絶した。当然、不死川は激怒した。
「出来ねェだと?! テメェらが火憐を利用するためかァ?!」
「不死川さん、落ち着いて!」
胡蝶が割り込んだが、彼女の腕力では不死川を抑え込め無かった。
「アイツは今も、地獄にいる!!」
「不死川さん!」
「もうこれ以上黙って見ては──」
「黙って!!!」
胡蝶の鋭い声と共に、部屋の奥から、血色を失った冨岡が姿を現した。
「冨岡⋯⋯」
「火憐は、どんな状況にある?」
「テメェ⋯⋯知ってたの──」
「答えろ!! アイツは無事なのか?!」
「やめろ!!」
愈史郎が、両者を無理矢理引き離した。
「口に出すな。書き起こすな。アイツの努力が無駄になる」
彼は勝手に椅子に掛け、眉間の皺を深めた。
「アイツがバレずに札を使えているのは、元々鬼に体質が近かった事と、”最初から”持っていたからだ。今、此方の状況を伝える物を渡せば、確実に気付かれる。⋯⋯あと少しだ。彼処までやらせてしまったんだ。あと少し、俺たちが堪えるべきだ」
「私は聞くべきではありません。出て行きます。喧嘩をしない様に」
重要な話を耳に入れるわけに行かない胡蝶は、部屋を出て行ってしまった。
「俺は何も見ていないし、聞いていない。ただ、アイツが何をしているかだけを知らされている。予想はしているが⋯⋯」
冨岡は言葉を濁した。不死川は驚いた。
(コイツ⋯⋯隠していたのか?! 巧妙に)
同時に腹が立った。やはり冨岡は柱の中でも、かなりの実力者なのだ。敵わない相手だ。
「鬼舞辻が、アイツを守ってる。上弦ノ弐には引き渡さなかった。だが⋯⋯その代わり、テメェ自身で──」