第88章 真の狂人※
「火憐」
鬼舞辻は、甘ったるい声で囁いた。
「お前は愚かでは無い。もう分かっているはずだ。何故たった一言、本音を言えぬのだ」
「私は⋯⋯汚れていない!」
「それを気にしていたのか。案ずるな。この世の物とは思えぬ程、美しい。さあ、どうして欲しい?」
「っ⋯⋯」
「嗚呼、可哀想に」
童磨が、さも憐れむ様に吐息を漏らした。
「此方へおいでよ。すぐに楽にしてあげよう」
宇那手にとって、究極の選択だった。生きるか、死ぬか。童磨か、鬼舞辻か。選ばなければ、自分を含め、柱や麗たちの命が、即座に狙われる。
「⋯⋯無惨。楽にして。何時もの様に⋯⋯終わりにして⋯⋯」
「お前なら、正しい判断が出来ると分かっていた」
鬼舞辻は、思い切り宇那手の身体を貫いた。今にも気を失いそうな彼女の前髪をかきあげ、優しい声色で囁く。
「当分、食事は必要無い。その分、味合わせて貰うぞ」
「つ⋯⋯あ⋯⋯っ⋯⋯」
宇那手は、鬼舞辻の服を掴み、嗚咽と嬌声を懸命に堪えた。
(本当に馬鹿な男⋯⋯。もう、とっくに、怒りをかっているというのに)