第88章 真の狂人※
「結構。この近辺に鬼はいませんから、すぐに、此方の屋敷へ移動してください。私の事と、貴女の身体の事情は、屋敷の主人以外、誰にも話してはいけません。良いですね?」
宇那手は、悲鳴嶼の住所と、少しの金銭を少女に手渡した。
「それから、貴女の見た目は十二歳程度の子供です。実際には、もう少し生きているでしょうが、周りからは、子供として扱われる。相応の振る舞いを心掛けてください」
「分かった。⋯⋯分かりました」
「行ってらっしゃい。幸運を」
宇那手は、慈愛の笑みで送り出した。
しばらくすると、鬼舞辻が戻って来た。
「この程度の薬なら、私に投与しても問題無かった」
「万が一を考えたのです」
宇那手は広げた荷物を手早く片付けながら答えた。
「それに、助けたかった。貴方が不用意に増やし、何の力も発揮できなかった鬼は、私が救います。貴方は、抗体を得ることが出来る。良いですね?」
「構わないが、毎晩外出は出来ない。この後無限城へ戻り、鳴女の様子を見る。着いて来い」
鬼舞辻は、有無を言わさず宇那手の腕を掴んだ。琵琶の音と共に、二人は奇妙な空間に移動していた。
「⋯⋯貴方が用事を済ましている間、童磨と話がしたいです」
宇那手の意外な申し出に、鬼舞辻は顔を顰めた。
「童磨?」
「確認したいのです。ヤツは鬼としても、人間としても、極めて特異な個体です。本当に心が欠落しているのか、確かめたい。貴方の話を聞く限り、彼は心の美しい女性を傍に置きたがった様ですね?」
「好きにしろ」
鬼舞辻は投げやりに答えた。宇那手は、童磨の前へ放り出されていた。あくまで、無限城と接続された、鬼舞辻の目と手の届く範囲だ。