第88章 真の狂人※
「申し訳ございません。少し疲れて、感情の制御が上手くいかず、不快な思いをさせました」
宇那手は手を離し、少女の傍に膝を着いた。
(少し熱がある⋯⋯?)
鬼の少女は、鬼の特徴を失いつつあった。爪は元の形に戻っている。宇那手は追加で解熱剤を打った。柳の樹皮から抽出した、アスピリンという薬だ。これまで投与して来た、「柳の樹皮のお茶」よりも、効果は高い。
「無惨様。産屋敷は、何をしでかすか分かりませんよ。”可愛い子供達”と呼んでいる隊士を見殺しにする方です。突き詰めれば、一族を短命の呪いから解き放つ為だけに、犠牲を出し続けている。私の命ですら、喪われて然るべき物として扱われた。⋯⋯気を付けてくださいね」
「ああ」
鬼舞辻も、分かってはいた。幾ら宇那手が産屋敷を憎んでいたとしても、それを理由に鬼殺隊を裏切る事は無いと。
何故なら、彼女は産屋敷の為に鬼殺隊に入隊したのでは無く、家族を喪い、水柱を深く愛していたからだ。
それでも、良かった。残された時間、生涯において、唯一自分を理解しようとしてくれた宇那手を、「普通に」愛したかった。そんな感情が生まれていた。
「⋯⋯ん」
少女が身じろいだ。宇那手は、慌てて鬼舞辻を振り返った。
「この辺りに他の鬼の配置は?」
「無い」
「でしたら、すぐに送り出します。貴方は姿を隠してください」
「分かった」
鬼舞辻は素直に従った。目を覚ました少女に、宇那手は笑い掛けた。
「身体の調子は?」
「⋯⋯凄く重い」
「口を開けて」
宇那手の指示に、少女は素直に従った。牙は元に戻っていた。虹彩も。気配も人間だ。
「ご覧ください」
宇那手は鏡を取り出し、少女の姿を映した。
「元に戻りましたよ。貴女は今、体力を消耗しているはず。私を、喰いたいと思いますか?」
「⋯⋯思わない」