第14章 秘密
二人で取り残され、緊張したのは胡蝶の方だった。今度はどんな話を聞かされるのだろうかと、心拍数が上がるのを感じた。
「⋯⋯師範のお気持ちに気付きました」
宇那手は、なんとも呑気な事を言った。
胡蝶はようやく緊張を解き、好奇心に従って身を乗り出した。
「うんうん。それで?」
「激し過ぎて、受け止め切れませんでした」
「は?! ⋯⋯あ」
胡蝶は、宇那手の首筋に鬱血痕が残っている事に気が付いた。
「なるほど〜。確かに、随分と⋯⋯。ちょっと待ってくださいね」
胡蝶は引き出しからガーゼとテープを取り出した。
「まあ、傷では無いので、放っておいても良いのですが、見る人が見れば、分かってしまいますからね」
彼女は宇那手の首筋にガーゼを貼り付けた。宇那手は、顔を真っ赤にして拳を握りしめている。
胡蝶は、そんな彼女を可愛いと思えた。
「それで、今後はどうするんですか?」
「⋯⋯分かりません。どうしたら良いのか⋯⋯師範が何を考えているのか、何一つ分からないのです」
産屋敷の考えを理解出来て、冨岡の考えを理解出来ないというのも、中々珍しいと、胡蝶は思った。
「まあ、冨岡さんの方にも問題がありそうですね。⋯⋯これを渡してください」
胡蝶は、一冊の本を取り出し、宇那手に差し出した。
「私があれこれ指図をするのもどうかと思いますので、ご自身で学んでいただきましょう。⋯⋯他は、大丈夫ですか? 何かされませんでしたか?」
「私が振り払ってしまいましたので、特に。⋯⋯されるとしたら、何をされていたのでしょう? 正直師範の行動は想定外でした。昼間に道端で突然首を噛まれたので。何かされるのであれば、夜だと思っていたのですが」
「あー⋯⋯」
胡蝶は死んだ目で宇那手を見据えた。師範共々、双方バカとしか言い様が無い。冨岡は兎も角、宇那手のそんな一面に、胡蝶はかえって安心感を覚えた。