第14章 秘密
「承知いたしました⋯⋯っ!」
胡蝶は反射的に頭を下げていた。無意識の動作だった。宇那手は、胡蝶の信頼を完全に勝ち得たのだ。
「こ⋯⋯胡蝶様! 私は継子です! 頭を下げられる様な存在ではありません!!」
「そうでしたね。うっかりです」
胡蝶は意識して戯けて見せた。
「頭を下げる必要は無かったかもしれませんが、貴女は私と同じ歳ですし、貴女が柱と同等の待遇を受けるのであれば、対等な存在です。そんなに肩肘張らなくても結構ですよ」
「はい」
宇那手は、穏やかに頷いた。
胡蝶は、普段なら立ち去っていたであろうアオイに目を向けた。
「貴女も何か用ですか?」
「宇那手様にお礼を言っていなかったので。あの変な髪の子はすっかり静かになって、薬も飲みました! 宇那手様のお陰です。ありがとうございました!」
「それは良かったです。炭次郎様は優しい方ですから、善逸君を戦場で見捨てたりはしないでしょう。戦う事を望むのなら、心を入れ替えて、強い剣士になって欲しいです」
宇那手は、憂いを帯びた表情で返した。彼女の言葉の裏には、突き詰めれば冨岡への愛情があった。炭次郎を特別視する冨岡のために、激励したのだ。
「えっと⋯⋯師範のお話はお済みでしょうか?」
宇那手は冨岡に目を向けた。彼は無言で頷き、部屋を出て行ってしまった。アオイもそれに従った。