第88章 真の狂人※
「⋯⋯産屋敷は、言い掛かりも甚だしいですね」
宇那手は、顔を背けた。ずっと長い事抱いていた本心だ。声⋯⋯洗脳が通じない彼女だからこそ、抱いた想いがある。
「遺伝性の病というものがあります。一族から、致命的なまでに病弱な人間が出ているのなら、それが遺伝していても不思議はありません。一族から鬼が出ている事が短命の理由なら、一族の内、誰かが鬼にされ、人を喰い、それでも生き延びている親族は、なんなんでしょうね。私は⋯⋯貴方と同じくらい、産屋敷が怖い。本当に貴方と、彼らが同じ血を引く者だとしても、確証の無い神官の言葉を理由に、千年もの間、貴方を追いかけ回していた執念を、恐ろしく思います。貴方もきっと、恐ろしく、疎ましく思っていた事でしょう」
「⋯⋯理解⋯⋯出来るのか?」
鬼舞辻は、心底驚いた様子で目を見開いた。
「鬼狩りが⋯⋯それを⋯⋯」
「異常だと、思います。私は、その点に於いて、貴方に同情します」
宇那手は、恐怖を押し殺して、鬼舞辻の手を握った。
「もっと別の道があったはず。憎しみ合い、殺し合う前に、出来る事があったはず。⋯⋯私はどうしても許せない事がある」
鬼にしか打ち明けられない事だ。
「あの藤の花の牢獄で、何人の子供が人為的に殺された事か⋯⋯。五人”も”生き残った? いいえ! 二十人近く殺されているんです。産屋敷家が鬼殺隊を維持する為に、これまで何百人もの子供が殺された!! 手を下していないから許される? 間接的な殺害です!! その憎しみさえも、鬼へと向ける様操作している産屋敷が⋯⋯恐ろしく⋯⋯憎い⋯⋯」
「⋯⋯火憐」
鬼舞辻は、生まれて初めて、共感という物を強く実感した。理解されたという感情は、心に安らぎをもたらした。
顔色の事を言われようと、腹が立たなかった。
「火憐⋯⋯」