第88章 真の狂人※
「⋯⋯良いでしょう。ですが、条件があります」
宇那手は、鬼に対する毒薬と、治療薬を掛け合わせ、振った。
「必ず、天寿を全うする事。殺した分⋯⋯喰った分だけきちんと生きて、罪を償うこと。お約束いただけますか?」
「⋯⋯死にたくない。でもそれ以上に、殺したくないの!! だから⋯⋯だから⋯⋯戻してっ!!」
「⋯⋯貴女の様な鬼を⋯⋯本来なら、どれだけ救えた事か」
宇那手は薬を調合しながら、溜息を溢した。
鬼になった直後に拘束し、適切な治療をすれば、人を喰わずとも、理性を取り戻す事は、珠世達が証明している。
(産屋敷の先祖は、全員地獄に堕ちているんだろうか⋯⋯)
そもそも、弱い鬼を藤の山の牢獄に閉じ込めなければ、幼い子供達が喰われる事も無かったのだ。
不意に鬼にされてしまった者を、問答無用で殺そうとしなければ、更に罪を重ねる事を防げた。
全ては、鬼殺隊の仕組みに問題がある。
「この薬を打ちます。夜明け前には、元の身体に戻っているでしょう。その間、私が傍で貴女を守ります。貴女の、殺したく無いという言葉を信じますよ」
宇那手は、少女の首に薬を打ち込んだ。効能はすぐに現れた。彼女は、普通の子供の様に、気を失って倒れて仕舞った。
宇那手は、鬼の子供を床に寝かせ、羽織を掛けてやった。
「不快な毒だな」
鬼の身体を通じて、薬の影響を読み取っていた鬼舞辻が、寺に入って来た。
「分解に時間が掛かる」
「その様に作られていますから。時間稼ぎの意味も込めて」
宇那手は鬼舞辻を振り返り、その顔をじっと見つめた。
「⋯⋯鬼舞辻無惨。貴方を怒らせる事を承知で、伺ってもよろしいでしょうか?」
「私の事は、名前で呼べ。何が疑問だ?」
「貴方の今の容姿は、人間の頃のままでしょうか? 擬態の精度を鑑みるに、血色も操作出来る様に思えるのですが」
「上背は今より低かった。肌の色は操作していない」