第87章 着いて行く
「⋯⋯義勇さん。俺は、生きなければならないんです。火憐さんが、貴方の為に、生きてくれと言ったから。俺が死んだら、義勇さんがもっと苦しむって。⋯⋯だから、恥ずかしくても、惨めでも、生きて行くしかないんです。鬼舞辻無惨を討ったら⋯⋯ちゃんと涙が出ると思います。だから⋯⋯だから、許してください。俺が前を向いて生きる事を」
「⋯⋯炭治郎」
冨岡は、ようやく炭治郎の態度を理解し、俯いた。無邪気な笑顔も、一見異常とも受け取れる行動も、全て冨岡のためだったのだ。
「俺が悪かった。心配ない。俺は戦う」
「良かった」
炭治郎は、底抜けに明るい笑みを浮かべた。
彼は、翌朝早くに蝶屋敷へ戻って行った。冨岡は他の柱達に、隊士を受け入れると伝言を送り、刀の手入れと鍛錬に集中した。
水柱の屋敷は、訓練の最終地点で、全く隊士がやって来なかった。
がらんとした屋敷の中で、冨岡は、ただ孤独に堪えていた。食事も味がしなかった。どんなに努力しても、宇那手の料理の味を再現出来なかった。
(火憐。本当に、目論見通りなのか⋯⋯? 本当に生きて⋯⋯)
その可能性を考える度に、恐怖と寒気で身動きが取れなくなった。
(問題無い。⋯⋯生きていようが、いまいが、鬼舞辻無惨に対する憎しみは同じだ。俺はあいつを殺す。そして、その時、お前が傍らにいないのなら、同じ場所へ行く)
冨岡は、酒を煽って布団に潜った。悪夢に魘されると分かっていても、寝る前に酒を飲む事をやめられなかった。
きっと、全てが終わった後、宇那手が一等優しく叱り飛ばしてくれるはずだ。