第85章 美しきもの
そして、嫁を自殺に追い込み、医者を殺してからは、本当に独りになった。どれだけ鬼を増やそうと、味方は出来なかった。
(この娘は、何が違うというのだ?)
「ええっと、貴方は、どれが美しいと思いますか?」
「⋯⋯美しい?」
「はい」
宇那手の瞳は、鬼舞辻真っ直ぐ捉えていた。その時、彼は唐突に理解した。宇那手は、肩書きや強さでは無く、目の前にいる生き物の心を見詰めているのだ。
「色や、形でも構いません。知りたいんです。貴方の事を理解したい」
「⋯⋯そうだな。強いと言えば、カメオだ。異国の物には興味がある」
「論点がズレていますね。興味があるかどうかでは無く、好きな物を知りたかった。貴方にとって、興味と好意は同じ物でしょうか?」
「それを知ってどうする?」
「私が貴方に何か贈ろうかと考えたんです」
「何故?」
「さあ? 貴方の孤独が、少しでも埋まれば、と。そんな所です。⋯⋯やはり、私が選びますね。お時間をください」
宇那手は、頭痛を堪えながら店に入った。
「すみません。青石の腕輪をいただけますか?」
「嬢ちゃんが買うのかい?! 十円はするよ?! これは異国の宝石を使った物で──」
「買います」
宇那手は、にっこり笑って財布を出した。
(私は、これを持って地獄へ行こう。珠世さんや、これまで殺して来た鬼と一緒に。鬼舞辻無惨と一緒に。⋯⋯あの人は、連れて行けないから⋯⋯せめて──)
「麗も、同じ色を好んでいたな」
勝手に着いて来た鬼舞辻が、そう呟いた。
「女としては、稀では無いか? 普通、花の色を好む物だ。昔から」