第84章 最期の伝言
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「不死川さん、意外と落ち着いているね」
遺書を預かり、目を通しつつ、時透は不死川の気配を探った。彼はかなり怒っていたが、悲しみに暮れてはいなかった。
「でェ?! その遺書から何が分かった?」
「赫刀の条件」
不死川の手紙の文字は、”ねつ”。
「高温です。つまり、痣のある隊士でなければ、発現させるのは難しい。火憐さんは、刀身に手を当てて、発現させていました」
「何から何まで無茶苦茶だな、オイ」
不死川は鍛錬の手を止めて、髪を掻きむしった。
「人間に出来る芸当じゃねェな」
「呼吸を使っている時点で人間離れしているけれどね」
時透は、縁側にちょこんと座り、空を見上げた。
(不死川さん、何か隠してる?)
「ねえ。⋯⋯火憐さん、本当に死んじゃったのかな」
「テメェ、どうした?」
「色々、不自然に思う事があって」
時透は、慎重に言葉を選んだ。
「食べられたっていうのが、変。一番おかしいのは、簪だけ残されていた事。火憐さんの身体は毒まみれで、簪一本捨てた所で、ほんの僅かな違いしかない。魚を骨まで食べたヤツが、エラだけ残すと思う?」
「知るかよ!」
不死川は投げやりに答えた。本当の事を教えるわけには行かない。
「さっさと稽古に戻れや! ただでさえ、冨岡の馬鹿がサボってるんだ!! 柱は稽古に励む。それしかない」
「分かった。けど、僕一人じゃ伝達に時間が掛かる。鴉は使えない。胡蝶さんと冨岡さん、悲鳴嶼さんには、僕が伝える」
「伊黒の所には俺が行く。伊黒は甘露寺に伝えるだろう。もう良いだろう! さっさと出て行け」
不死川は、時透に悪感情を抱いてはいなかったが、余計な事を喋ってしまわぬ内に追い払いたかった。
「分かった。邪魔をしてごめんなさい」
時透は、ぺこりと頭を下げて屋敷を後にした。