第14章 秘密
「私は明日、煉獄様の所へ稽古に行きます。ですので、お館様に手紙を届けていただきたいのです。⋯⋯重要な内容も含みますので、隠ではなく、胡蝶様ご自身にお願いしたいのです」
「構いませんよ。⋯⋯その内容については、教えていただけないのですよね?」
「一部でしたら」
宇那手は、勧められるままに、丸椅子に腰を下ろした。
「最終選別について、少し意見を。期間は冬至から、雪解け前の春。気候的条件も重なり、鍛錬の足りない剣士は、鬼との接触が無くても脱落するはずです。加えて、合格後、其々の居住地への帰還や、日輪刀が届けられるまでの期間を考慮すると、一ヶ月は時間があります。鬼の最大の弱点は日光です。夏至に近付くにつれ、日が長くなり、知性を持った鬼ならば、この時期に活動を控えるはず。比較的力の弱い鬼を狩る事で、次の冬至までの期間に経験を積む事が出来ます。最後に、選別期間中の棄権の手段も記しました。今後最終選別に参加する権利を失う代わりに、助かる方法を」
誰も、言葉を発せなかった。宇那手が、産屋敷にその手の意見を求められていた事にも驚いたし、臆さず意見を言える信頼関係を築いている事に衝撃を受けたのだ。
「ですが、これはあくまで、鬼舞辻討伐まで一年以上掛ける事を想定しての案です。もっと早く、事情が変わる可能性も考慮しております」
「⋯⋯分かりました。責任を持ってお預かりします」
胡蝶は、厳重に封をされた手紙を受け取り、更に衝撃を受けた。その紙は、鬼が触れることさえ苦痛に感じる様な毒が仕込まれていたのだ。
「この毒を、どうやって?!」
「胡蝶様に頂いた、椿油を調べました。藤の毒は、自然に存在する物であれば、余程おかしな物と調合しない限り、その性質を変えずにいる事が分かりましたので、水で薄め、和紙を作る際、水の代わりに使用しました。炭を溶く水にも使用しました。最後に香油を文面に吹き付けましたので、並の鬼なら、読もうとした瞬間に、目を損傷するはずです」
「⋯⋯」
胡蝶は、静かに話す宇那手を前に、震えを抑えられなかった。教えれば、蟲の呼吸ですら、使いこなせるのでは無いかと感じた。