第84章 最期の伝言
冨岡は、緩慢な動作で手紙を受け取った。
──鬼の妹を守り続けている君なら、分かってくれると信じています。だから、私の本音を聞いて欲しい。
──鬼舞辻無惨を恨まないで。君も知っての通り、彼には家族がいた。彼を心から愛している家族が。あの優しい母娘から、父親を奪おうとした私の行動は、正に鬼畜そのものです。私は、間違っていました。だから、正当な罰を受けたのです。
──だけど、叶う事なら、皆と力を合わせて、鬼舞辻無惨の首を斬って欲しい。彼の命を奪った罪は、全て私が背負います。
──それから、私の代わりに、毎日祈り続けて欲しい。望まぬまま鬼にされてしまった人達が、一日も早く地獄から解放される様に。今度こそ、幸せな一生を送れる様に。
──最後に、冨岡さんを助けてあげてください。彼は、君の事を、特別に思っているから。どうか、支えてあげて欲しい。鬼のいない世界を、幸せに生きて行ける様に。あの人は寂しがり屋だから、傍にいてあげて。それだけが、唯一の心残りです。
「⋯⋯それなら、この⋯⋯この感情は何に向けたら良い?」
冨岡は、胸を抑えて喘いだ。
「恨むな、だと? この期に及んで、あいつは、鬼舞辻無惨を許せるのか?! 何処までも⋯⋯残酷で⋯⋯優しい⋯⋯。俺は恨むことでしか、生きて行けない!! 戦う事も出来ない!! 慈愛の心など──」
「でも、義勇さんは、水の呼吸を極めた人です!」
炭治郎は、必死に訴えかけた。
「他の呼吸には無い、慈愛の技のある呼吸を極めた──」
「だから、俺は柱ではないと言っているんだ!!!」
冨岡は、その場に崩れ落ちた。怒りに駆られ、激しい頭痛と眩暈に襲われた。
「何が水柱だ!! 拾弐ノ型を使えぬ俺が生き残り、何故あいつが殺された?! 俺は──」
限界だった。錆兎の死を知らされた時と同じ様に、視界が真っ暗になり、彼は床に倒れ伏してしまった。
「冨岡さん!!」
「大丈夫」
駆け寄ろうとした炭治郎を、戸口に現れた時透が制した。
「僕が運ぶ。⋯⋯ごめん、柱なのに。でも、この人は、今、余裕が無いから」
時透は、膝を着き、冨岡を抱え上げた。その時、宇那手の手紙が時透の視界にも入った。彼はそれを一通り読み、穏やかに微笑んだ。