第84章 最期の伝言
「二歳の時に親に見放された。面倒だから、と⋯⋯。刀に打ち込むより他に無かった。だが、どいつもコイツも、すぐに折って死にやがる!! あの娘は⋯⋯俺を見放さなかった。手を止められなかった俺を、罵りながらも守り切った。最後まで⋯⋯。嗚呼!!」
彼は顔を覆って狂った様に叫び出した。
「ちくしょうが!! 俺が殺してやる!! 俺の刀を折った奴を!! 俺の隊士を殺した奴を!! あの娘は⋯⋯さぞかし良い嫁になっただろうな⋯⋯」
「鋼鐵塚さん⋯⋯」
炭治郎は、落ち着きと常識の無い刀鍛冶職人の内面に触れて、俯いた。
(煉獄さんと同じ⋯⋯。いや、それ以上に火憐さんは、人に愛されて⋯⋯)
「炭治郎」
病室の入り口に、湯呑みを持ったカナヲが立っていた。彼女は全身に汗を掻いて震えていた。
「し⋯⋯死んだの? 火憐さん⋯⋯死んでしまったの?」
「胡蝶の継子か。お前宛の遺書は、胡蝶に預けたはずだが」
冨岡が平坦な声で告げると、カナヲは湯呑みを取り落としてしまった。
「嘘⋯⋯。嘘⋯⋯」
「カナヲ」
アオイが沈んだ顔で、彼女の両肩に手を置いた。
「戻ろう? 手紙を読まないと」
「⋯⋯姉さん。⋯⋯カナエ姉さん⋯⋯」
カナヲは宇那手に、亡き義姉の姿を重ねていた。もう一度喪う苦痛を味わうとは思っていなかった。
アオイは、仕方なくカナヲを外へ連れ出した。
冨岡は、炭治郎に目を戻した。
「すまなかった。お前たちの師範を⋯⋯俺の継子を守れなかった。すまない」
「冨岡さん!」
立ち去ろうとした冨岡を、炭治郎は慌てて引き止めた。
「冨岡さん⋯⋯。死なないでください!」
「⋯⋯俺は全ての鬼を抹殺するまで戦い続ける。そう誓った。その責務まで放棄すれば、同じ場所へは行けまい」
「待ってください!」
炭治郎は、転がり落ちる様にベッドから這い出し、遺書を差し出した。
「冨岡さんには、もっと優しい言葉が書かれていたかもしれないけれど⋯⋯でも、これを読んでください!!」