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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第84章 最期の伝言


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 一方冨岡は、責務を果たすべく、炭治郎の病室を訪れていた。

 屋敷に留まっている宇那手の継子や弟子達は、悲しみに暮れて、沈み込んでいる。桜里は、仏壇の側を離れなかったが、誰かが泣き出す度に、宥める役割をかって出てくれた。

 炭治郎の側には刀鍛冶職人がいた。

「貴方が、火憐の刀を打っていた職人ですか?」

 冨岡が訊ねても、返事は無かった。

「あの、冨岡さん? お見舞いですか? 嬉しいです!」

 炭治郎は無邪気に笑った。まだ、何も知らされていないのだ。

 そもそも、柱は入れ替わりが激しく、一般隊士まで、訃報が伝えられない。刀に刻まれた文字だけが、階級を証明する物で、現場に出て、初めて柱の顔と名前を知る者も多いのだ。

「炭治郎」

「はい!」

「火憐が死んだ」

「⋯⋯待って」

 隣のベッドにいた玄弥の方が先に反応した。

「死ん⋯⋯だ? そんなはず⋯⋯だって⋯⋯俺たち」

「殺された!」

 冨岡は拳に力を入れて叫んだ。

「殺されたんだ!」

「誰にですか?!」

 ようやく炭治郎も口を開いた。冨岡は、全身を震わせ、絶望の淵で足掻く様に言葉を絞り出した。

「鬼舞辻無惨、本人と戦い、殺された!! 喰われた!! これしか⋯⋯遺されなかった」

 彼は自らが宇那手に贈った簪を取り出した。

「これには、大量の毒が含まれていた。だから、これだけ⋯⋯」

「え?! 待ってください! それは変っスよ」

 玄弥は眉間に皺を寄せた。

「だって、あの人の身体は鬼に対する毒だらけだったって⋯⋯。確かそれが原因で倒れて⋯⋯」

「あいつは稀血だった。毒を喰らう事を考慮しても、ただ殺すよりも⋯⋯喰うべきと判断したんだろう。⋯⋯炭治郎、玄弥。お前達宛の遺書を預かっている」

 冨岡は両名に遺書を差し出し、ひょっとこの面の職人に目を向けた。

「貴方が鋼鐵塚蛍か? あなた方にも、遺書を預かっている。他の職人にも渡してくれ」

「⋯⋯俺には、刀しかなかった」

 鋼鐵塚は、面を外した。炭治郎も玄弥も素顔を知っていたので、さしたる問題では無かった。

 悲しみに沈んでいた冨岡も、刀鍛冶職人の涙に濡れた顔が、あまりに端正だったため、言葉を失ってしまった。

「分かっていた。分かっていたさ」

 鋼鐵塚は、独り言の様に呟いた。
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