第84章 最期の伝言
(もっと役に立たなければ。何時殺されるか分からないんだから。情報が欲しい⋯⋯)
「待て」
鬼舞辻は、宇那手の手首を掴んだ。
「命の保証をしているんだ。血を分けろ」
「貴方に噛まれて死に掛けたんですが。⋯⋯採血しますので──っ!」
鬼舞辻は、ガッと宇那手の首に歯を立てた。
「安心しろ。状況が変わった。殺しはしない」
彼は、人間の所作で宇那手を抱き寄せ、血を啜った。
「っ⋯⋯く」
宇那手は、悔しさと怒りを懸命に押し殺し、鬼舞辻の背に腕を回し、痛みを堪える為に爪を立てた。
「やめ⋯⋯っ⋯⋯ん」
「また、妙な毒を飲んでいるな?」
鬼舞辻は宇那手の身体を床に投げ出した。分解は容易だったが、不愉快な気分になった。
「⋯⋯あと一ヶ月も待てば、分解され⋯⋯誰か来ましたね」
宇那手は、傷を押さえ、立ち上がった。
「鬼ですね。上弦⋯⋯参」
「良い。休んでいろ」
「いえ、傍にいます。それが約束ですので」
宇那手は、ふらふらとソファーの裏に隠してあった刀を掴んだ。
(あと少しズレていたら、頸動脈を刺されていた⋯⋯。血が⋯⋯止まらない⋯⋯)
元々体重の少ない宇那手は、少しの怪我が致命傷になる。だから、極力傷を負わずに戦闘を終わらせる手法を取って来た。
鬼舞辻は、どんどん血色を失って行く宇那手をほったらかしに、窓から外へ降り立った。
(駄目⋯⋯だけど⋯⋯今が)
彼女は愈史郎から託されていた札に自分の血を掛けて、効力を消した。今晩、安全に共有出来る情報はここ迄だ。
宇那手が、気力と執念で屋敷の門の外へ行くと、鬼舞辻は、猗窩座を激しく責め立てていた。
「⋯⋯猗窩座」
宇那手は、青白い顔で呼び掛けた。
「ごめんなさい。手柄を横取りして⋯⋯。貴方の矜持が許さないかもしれない。でも⋯⋯鬼舞辻無惨。この鬼を罰しないでください」