第83章 遺書
「だったら、冨岡の野郎に教えてやるべきだ!」
不死川は叫んだ。
「アイツは正気じゃねェ! このままじゃ戦力にならねェぞ!!」
「火憐と冨岡が特別な関係にある事は、鬼舞辻も知っている。⋯⋯心苦しいが、冨岡の絶望こそが、鬼舞辻を騙し続ける為の鍵になる」
「火憐の計画か? そうだろうなァ。酷い女だ」
不死川は、安堵の息を吐きながら文句を言った。会議中は一際涙を見せなかった彼が、ボロボロと泣き出してしまった。
「生きていると思ってた。⋯⋯アイツが死ぬわけないと⋯⋯」
「身体は無事なのか」
伊黒が、ぽつりと呟いた。
「鬼舞辻は、あいつを生かして傍に置いている。鬼にも変えていないのなら、何か特別な感情があるんじゃないか? 生きてはいるが、心と身体は⋯⋯」
「無事では無いかもしれません」
あまねは、苦渋の決断で真実を伝えた。
「鬼舞辻が火憐さんに、異常な執着を示しているのは、事実です。一度は上弦ノ弐に引き渡しましたが、二度目は自身で陵辱しています。夜は、彼女も限られた時間しか目を使っていません。鬼舞辻に血鬼術を看破られないためかもしれませんが⋯⋯」
「クソが!」
不死川は畳を殴り付けた。
「ああ、クソ!! どうすりゃ良い?! 鬼にヤられるのを、放っておけってか?!」
「私たちに出来ることは、火憐が命懸けで稼いでいる時間に、隊士を鍛え上げる事だ。あの娘を鬼舞辻との直接対決まで、無傷でいさせるには、あの娘の為に何もしない事だ」
悲鳴嶼は顔を伏せた。
「気の毒だが、火憐の選んだ道だ」
「だが、士気が低下した。冨岡は使い物にならない。どうする?」
伊黒は現実的な問題を突き付けた。あろうことか、悲鳴嶼は僅かに笑みを浮かべた。
「士気なら気にせずとも良い。死んだと思っていた人間が、ここぞという時に姿を表せば、皆、本領を発揮出来るだろう。特に冨岡は、限界以上の力を引き出せるはずだ」