第82章 上弦ノ肆
「みんなあああ!!」
そこに甘露寺が駆け寄って来て、全員が揉みくちゃにされた。
宇那手は、彼らと距離を取り、駆け付けて来た隠に目を向けた。
「竈門君たちを、すぐ蝶屋敷に。特に禰󠄀豆子さんは、次の夜が来る前に、あの屋敷に運んでください。決して暗がりは通らないこと。職人たちは既に移動を始めていますから」
「はい! ⋯⋯ええっと、火憐さんは、また無傷っすか」
「そうですね。⋯⋯ 鋼鐵塚さん!」
宇那手は、怒り狂っている職人に歩み寄り、平手を喰らわせて落ち着かせた。
「私の刀を見せてください。打ちかけでも構いません。握るだけです。お願いします」
「アイツらが持ってるやつだ!! ほら!!」
炭治郎が庇っていた職人が、新品の刀を差し出した。
宇那手は、深呼吸してからそれを抜き、握り締めた。刀身は、黒く変化した。夜の闇より深い色だ。
「何故だ?! 何故その色に?!」
怒り狂う鋼鐵塚を無視し、宇那手は炭治郎の元へ向かった。
「見て。私の刀は黒です。謎が解けました。黒刀の剣士が出世出来ないのは、鬼舞辻無惨が積極的に狙い、殺していたからです。君は日の呼吸が使える。私も。どの流派より強力な技を使用できる証です。どうか、自分を信じて」
「はい! ⋯⋯あの、宇那手さん──」
「鋼鐵塚さん、刀をお返しします」
宇那手は、刀を丁寧に鞘に戻して手渡した。
「貴方にお願い⋯⋯命令です。この刀を打ち終えたら、必ずお館様の所へ届けてください。何があっても、必ずです」
「姉さん? 何を焦っているの?」
時透が顔を顰めた。宇那手は、慌てて笑みを浮かべた。
「私はすぐ、次の任務に向かいます。⋯⋯ 鋼鐵塚さん。黒い刀は、全ての始まりの呼吸の剣士が使用していた物と同じ色です。もっとも、竈門君の刀を研磨していて、気付いたかと思いますが。よろしくお願いします」
彼女は周囲の人々に頭を下げると、脱兎の如くその場を立ち去った。
(ごめんなさい、みんな。でも、勝負は此処からなの)