第82章 上弦ノ肆
「ごめんね!!」
走り去る宇那手の背に、甘露寺は振り返らずに叫んだ。
「分かってる! 貴女が優しい子だって!!」
(でも、怖いと思っていた)
宇那手は、少し微笑んだ。
(甘露寺さんですら、私の行動を異常だと思った。私は、本当に頭がおかしいのかも知れない)
「姉さん」
時透が宇那手に追い付いて来た。なんと気絶した鋼鐵塚を担いでいる。気絶しても刀を握り締めていた。
「この人、梃子でも動かないから、殴って連れて来ちゃった。炭治郎は今、合わない刀を使ってる。研ぎ掛けでも、こっちの方が良いはずだし。僕はどうしたら良い?」
「貴方はどうするべきだと思う? 先輩」
「姉さんの判断に従うのが最善。甘露寺さんを一人で残して来たのには、理由があるんでしょう?」
時透は宇那手に対する揺るぎない信頼を示した。
「教えて。どうすれば良いの?」
「半天狗が何体に分裂しているか分からないけれど、目を斬って欲しい。出来る限り視界を塞いで欲しいの。鬼舞辻は他の鬼と視界を共有しているから、こちらの情報を与えない様にしたい。私は禰󠄀豆子さんを離脱させて、本体の首に該当する場所を斬ります」
「分かった。でも、僕が首を斬る。さっき、姉さんの刀、面白い事になってたよね? 傷が治りにくいなら、貴女が視界を塞いで、あの鬼の子を助けて」
「うん」
宇那手は、並走する時透をチラリと見た。何も変わっていない様に見えるが、彼は以前より、ずっと落ち着いていた。
炭治郎と玄弥は限界直前だった。
「竈門君、退いて!!」
宇那手は、叫ぶと同時に天狗に斬りかかり視界を塞いだ。
「柱が二人来ました。君は禰󠄀豆子さんと離脱しなさい。もう時期夜明けです」
「分かっ⋯⋯ああああ!!」
一瞬の隙を突かれ、彼は妹共々崖下へ放り投げられてしまった。しかも、最悪なタイミングで、鋼鐵塚が目を覚ました。
「てめぇ何考えてやがる!! このクソ餓鬼!!」
「うるさい!!」
時透は刀を奪い取り、炭治郎に投げ付けた。
「炭治郎、それを使え!!」
ギャーギャー騒いでいる鋼鐵塚を取り押さえるのに、彼は必死だった。