第81章 上弦ノ伍
「火憐さん。あれ、まずいんじゃ」
小鉄は嫌味の応酬に震え上がった。
「問題無いですよ。恐らくわざとです。怒らせて、冷静さを失わせる算段です」
宇那手は麻酔を掛けて、素早く針を動かしながら答えた。
「それにしても、この人」
彼女は鋼鐵塚を見て嘆息した。
「貴方が逃げていれば、二人とも怪我をしなかったんですよ!! 聞いています?!」
聞いていない。
「もう無理!! 何考えてるのか分からない!!」
「安心してください。誰も分かってませんから」
鉄穴森は諦めにも似た言葉を発した。
「刀に対する愛情が、まさか此処までとは⋯⋯」
「取り敢えず手当ては済みました。私が護りますから──」
「うーん。気になっちゃって。なんかその壺、形歪んでない? 左右対称に見えないよ。下っ手くそだなあ」
時透の最上の煽りを耳にし、宇那手は即座に凪を使用した。
玉壺は激怒した。
「それは貴様の目玉が腐ってるからだろうがァァァ!!!!」
案の定、夥しい数の魚が襲い掛かって来て、宇那手も気分が悪くなった。一匹でも肌に触れていたら、毒を喰らっていただろう。
時透は難なく対処した。
「お前には、私の真の姿を見せてやる」
玉壺は木の上でほくそ笑んだ。
「この姿を見せるのはお前で三人目だ」
「結構いるね」
「黙れ。私が本気を出した時、生きていられた者はいない」
「すごいねー」
「口を閉じてろ馬鹿餓鬼が!! この透き通る様な鱗は、金剛石より尚硬く強い。私が壺の中で練り上げた、この完全なる美しき姿に平伏すがいい」
「⋯⋯⋯⋯」
「何とか言ったらどうなんだ、この木偶の坊が!!」
玉壺は、自分で黙っていろと言った癖に激昂した。