第81章 上弦ノ伍
(間に合え! 間に合え!!)
走って、走って目にした物は⋯⋯
「無一郎君!!」
時透が小鉄を庇って針だらけにされていた所だった。彼は、何か考えている様子だった。
「無一郎!! 動け!! 避けて!!」
宇那手の忠告も虚しく、時透は血鬼術をまともにくらい、大きな水の球の中に閉じ込められてしまった。
「無一郎!!」
彼は即座に視線を小屋へ動かした。何故か壺の鬼はそちらを狙っている。
「ごめん! ごめんね!!」
宇那手は、迷わず小屋に駆け込んだ。瞬きする間に壺を斬り伏せると、醜悪な鬼がギロリと振り向いた。
「貴様はあのお方の⋯⋯。何故楯突く?!」
「鬼狩りだから。他に理由は無い。貴方は芸術家?」
「その通りだ!! 見ろ!! この美しい壺──」
「見る目があるなら分かるでしょう。この国宝級の美形を傷付けることは、許されない」
宇那手は、研磨を続ける鋼鐵塚を背に庇い、刀を構えた。可哀想なのは鉄穴森だった。幾ら偏屈な相手とはいえ、顔見知りを見捨てる訳にも行かず、小屋の中を逃げ回っていた。
鋼鐵塚は、ぶつぶつと独り言を言っている。
「すごい鉄だ。すごい刀だ⋯⋯。なんという技術⋯⋯。素晴らしい」
逃げる気は更々無い。
「私、貴方の為に死ぬ事になったら、恨みますからね」
宇那手の声も届いていない様子だった。
「おい、そこの人間」
玉壺の言葉も無視だ。
「作者は誰なのだ。どの様な方がこの刀を⋯⋯。なぜ自分の名を刻まず、この一文字を⋯⋯。いや⋯⋯わかる⋯⋯わかるぞ⋯⋯」
「鉄穴森さん、私の背後へ。隙があったら見捨てて逃げてください」
「宇那手殿!」
「構いません。その為の柱です」
宇那手は諦めて時間を稼ぐ事にした。
「外にも優秀な柱がいます。何故其方に行かないのです?」