第81章 上弦ノ伍
夜になり、宇那手は甘露寺の担当地区を一人で走り回っていた。
(いる! 確かにいる!!)
道中、送られて来た隊士を森から追い出し、彼女はかなり近くまで駆け寄った。
「猗窩座!! いるんでしょう?! 話がある!! 姿を見せて!!!」
返事は無かった。
「これ以上、鬼舞辻無惨を怒らせたくなかったら、今すぐ姿を見せなさい!! 水炎柱の宇那手火憐だ!!」
すると、少し離れた場所に影が降り立った。
「分からなかった。肉質が変化したのか?」
「何のことだか分かりませんが、失礼」
宇那手は、一気に距離を詰め、指文字で琵琶と示した。瞬間、弦の音が鳴り響き、二人は無限城内へ転移していた。
鬼舞辻の機嫌といったら、過去最悪で、上弦まで解体すると言い出しかねない状態だった。
「結局鬼狩りに貸しを作る事になるとは!」
「まあ、此方も手を尽くしましたので」
宇那手は、背後に猗窩座を庇い答えた。
「里の場所をお伝えします。此方も戦う準備は万全です」
「馬鹿な! あの子供はもう移動したのか?!」
猗窩座は愕然としていた。宇那手は、微かに口角を釣り上げた。
「今代の柱と、産屋敷家当主を侮らない方が身のためです」
「場所は?」
訊ねる鬼舞辻に、宇那手は紙飛行機を投げ付けた。時透が折ってくれた、異常な程飛ぶ物だ。
地図を受け取った鬼舞辻は、青筋を立てた。
「子供の遣いでももっとマシだ。猗窩座、お前は何をしていた? 何故見過ごした?」
「っ⋯⋯」
「大丈夫、落ち着いて」
宇那手は、小声で囁いた。猗窩座は驚きに目を見開いた。まさか鬼狩りが自分を庇うとは思わなかったのだ。
「予定通り、竈門炭治郎、恋柱、霞柱が待機しています。見返りは、貴方の人間としての家族。不要になった時は、黙って消えてください。家族を害さない事を約束して欲しい」