第80章 不死川玄弥
「でも──」
「生きている間、貴方の口が幾ら固くても、殺され、喰われ、吸収されれば、記憶や思考を読まれてしまう。だから、私と対等な立場の隊士にはお話出来ないんです。貴方は、自分には絶対明日が来ると、信じていますか? ⋯⋯分かってください」
宇那手は手際良く布団を敷き終え、枕元に座った。
「今日は私が、眠るまで傍にいます」
「⋯⋯うん」
時透は大人しく布団に潜り、目を閉じた。目を閉じても宇那手の微笑んだ顔が浮かんだ。
(火憐さんは普通じゃ無いよ。変わってる。胡蝶さんだって、他人の僕に、こんな純粋な優しさを向けてくれない。この人が優しさを向けてくれる時は、怒りの感情が全く無い⋯⋯)
彼は玄弥と宇那手の会話を全て聞いていた。彼にとっては、とてつもなく複雑な内容であったにも拘らず、内容が心の中にスッと溶け込んで来た。
(僕が記憶を失うのも、普通の事だったの? 記憶を失う程の衝撃があったから、当たり前の事だって言うのかな? 何があったんだろう⋯⋯)
時透は夢さえ存在しない、暗闇の中に沈んで行った。