第13章 託す
「はいぃぃ!!!」
善逸は情けなく返事をした。宇那手は、深呼吸し、炭次郎のベッドへ向かった。
「貴方は積極的に治療を受けている様ですね。痛みはどうですか?」
「あ⋯⋯えっと⋯⋯肋骨が痛いです」
「複数箇所の骨折をしながら、騒ぎ立てない姿は立派です。⋯⋯累との戦いで、何を感じましたか?」
宇那手の問いに、炭次郎は俯いてしまった。
「⋯⋯正直、自分はまだまだだな、と。俺があれだけ手こずっていた相手を、冨岡さんは一瞬で倒してしまいました。このままでは、鬼舞辻無惨を倒すことなんて、出来ない」
「うん。師範が見込んだだけ、ありますね。貴方は、まだ戦う覚悟を持っている」
宇那手は、本来の穏やかさを取り戻し、炭次郎のベッドに座った。
「禰豆子さんが人を噛んだら、師範の代わりに私が腹を切るつもりでした。ですが、私はお館様の友人として、あの方を支える必要がある。師範の代わりにはなれません。だから、絶対に、妹を守り抜き、人間に戻してあげてください。お約束いただけますか?」
「はい! 必ず!!」
迷いの無い炭次郎の返事を聞き、宇那手は、藤の小箱を取り出した。
「これを、珠世さんの元に届けてください。私の両親は鬼舞辻に襲われ、鬼になりました。母の傷口付近から剥ぎ取った物で、鬼舞辻本人の血液が付着しています。同時に」
彼女は泣きたくなるのを堪えた。
最終選別を終え、かつての家に戻ったら、家財道具の類は何者かに持ち去られていた。年季の入った屋敷も崩れ掛けており、中に入る事は出来なかった。
「これは、肉親の唯一の形見なのです。絶対に無駄にはしないでください」
「分かりました。絶対に⋯⋯妹を人間に戻します!!」
木箱が炭次郎の手に渡った瞬間、ニャーと声が響き、すぐ側に猫が現れた。袋を背負っている。
「なるほど。血鬼術ですね。これで視界に干渉していたのですか」
宇那手は、炭次郎が猫の背負い袋に箱を入れるのを見守った。
彼が口をキツく縛ると、またニャーと一声響き、猫の姿は消えた。
「本当に、ありがとうございます」
炭次郎は、深く頭を下げた。
「宇那手さんは、ご両親を亡くされたのに、俺を助けてくださって⋯⋯」