第80章 不死川玄弥
「はい!」
玄弥は、ハキハキと答え、部屋を飛び出して行った。時透は、まるで子供の様にゴロンと横になった。
「姉さん」
「はい」
「肘と太腿の辺りが擦れて痛い。それから温泉に浸かってたら肌がヒリヒリして来た」
「泉質が合わなかったのかも知れませんね。しばらく普通のお風呂に入ってください」
「痛い。凄く痛い」
「⋯⋯困った子ですね」
宇那手は、完全に弟の様になってしまった時透に苦笑した。
「塗り薬を出しますから、自分で塗ってください。流石にお尻に触るわけには行きませんから。熱はありませんか?」
「⋯⋯少しある。でも、なんともないよ。何時もと同じ」
時透の体温計を受け取り、宇那手は顔を顰めた。三十八度。一般人なら病的な数値だ。
(優れた剣士程、体温が高い。痣の条件は、やはり体温?)
「本当に、何処も悪くありませんか? 身体が怠いとか」
「悪くない。でも、身体がヒリヒリする」
「分かりました。肘の傷だけ見せてください」
宇那手が言うと、時透は隊服の袖を捲った。確かに擦り傷がある。
「隊服の大きさが合っていない様ですね。縫服係に申し付けては?」
「これ、わざと。関節の動きを悟られない様に」
「なるほど。では、擦り傷のある部分だけ、裏地を変えて貰いましょう。銀子ちゃんは?」
「呼べば来ると思うよ」
時透が答えると同時に、鴉が舞い込んで来た。
「銀子ちゃん。貴女の主人が怪我をしない様に、手紙を運んでください」
「カーッ!! 怪我ヲスルワケ無イデショウ!! ウチノ子ハ──」
「怪我はするよ。それに、姉さんに食って掛からないで」
時透は、初めて鴉に不満を零した。
「銀子ちゃんは、無一郎君が可愛くて仕方が無いのね。お手紙と一緒に、これも結んであげる」
宇那手は、水色のリボンを銀子の足に結んだ。
「無一郎君の髪と同じ色。お揃いよ」