第80章 不死川玄弥
(やっぱり普通じゃない)
玄弥は、信じられない思いで言葉を咀嚼した。宇那手は、静かに微笑んでいる。
(普通じゃない。普通はこんな風に受け入れられねぇ。でも、普通じゃなくても)
「俺は──」
「私の事を、異常だと思った?」
宇那手は、特に怒るでも無く訊ねた。玄弥は、嘘を吐けなかった。
「はい。だって、普通は──」
「私にとって、受け入れる事は普通の事なの」
宇那手は、染み入る様な声で語り掛けた。
「身内が鬼にされ、咄嗟に殺そうとした事。鬼と対話をするために、素早く状況を理解し、受け入れ、飲み込む事。私が生き残るには必要な事で、当たり前の事だった。周囲は、私の強さや思考を、異常だと思うかもしれないけれど、私にとっては、全てが普通なのよ。私から見て、貴方も至って普通」
「俺⋯⋯俺は⋯⋯」
玄弥は、歯を食いしばった。悲鳴嶼も、身体を診てくれる胡蝶も、玄弥の戦い方には難色を示した。極めて異端で、あり得ない、異常な物として見た。何度も何度も、止める様に言われた。
けれど、鬼殺隊の中で、表面上は常識人に見える宇那手だけが、当たり前の事として受け入れてくれたのだ。
「すみません! 俺、貴女に酷いことを!!」
「気にしていません。異常だと思われる事も、私にとっては普通ですから」
宇那手は、本当に気にしていない様子だった。鼻歌でも歌い出しそうな調子で、荷物を漁った。
「竈門君は、鬼に対しても優しい隊士です。骨も残らず消滅してしまう鬼に同情していた。だから、髪の毛一本でも、返そうと考えたのかもしれませんね。⋯⋯あった」
彼女は薬瓶を取り出した。
「一応渡しておきます。鬼が人間に戻る為の試薬。竈門君の妹は鬼ですが、人間を守るという強固な意思があり、戦えます。彼女の血鬼術は、鬼の細胞を破壊する性質を持っています。貴方にも害が及ぶかもしれません。危険を感じたら、使用してください」