第80章 不死川玄弥
「まだ甘いですね。貴方の銃弾は特殊な素材で出来ている。剣士が使う刀と同じです。それを使い捨てにしている事をお忘れなく。必中出来る様に」
宇那手の言葉はかなり厳しい物だったが、彼女自身が優れた銃の腕を持っているため、玄弥も素直に受け入れられた。
「努力します。⋯⋯あの、疲れていますか?」
「いえ。今晩、少々厄介な仕事があるので、緊張しているだけです。君も、今日は眠らず、武器の手入れを欠かさぬ様に。かなり激しい闘いになると思います。その前に貴方の身体を診ておきましょう。上着を脱いでいただけますか?」
「今ですか?!」
「夜まで待てと? 申し訳ないのですが、今日ばかりは、予定を動かすわけに行かないので」
「わ⋯⋯わ⋯⋯分かりました」
玄弥は耳まで真っ赤になりながら、隊服を脱いだ。宇那手は、直接肌に触れ、脈を取り、心音を聞いた。
「⋯⋯うん。怪我もなさそうですし、問題ありませんね。食事もきちんと摂っていますし、万全でしょう。口を開けて」
「はい」
「歯も揃っていますね。貴方にとっては、大事な武器ですから。閉じて良いですよ」
「火憐さんは、鬼喰いについて嫌悪しないんですね」
「まあ、そういう剣士がいた事は、記録上把握していましたし、貴方が生きる為なら、仕方の無い事だと思っています。ただし、本当の鬼になって、自我を失くしたら、首を刎ねます」
それに、と宇那手はえも言えぬ笑みを浮かべた。
「彼方は散々人間を喰っている。此方が喰ったって文句は言えないでしょう。正直スカッとします」
玄弥は大汗をかいた。
(もしかして、この人、滅茶苦茶ヤバい人なんじゃ⋯⋯。いや、普通じゃないだろう!!)
「冗談はさておき」
宇那手は、玄弥と真っ直ぐ向き合った。
「鬼を喰う事は、貴方にとって、当たり前で自然な事だった。誰に何と言われようと。呼吸が使えない。でも、戦いたい。揺るぎないその意志から導き出された行動なら、貴方にとっては、必然で普通の事でしょう? 嫌悪なんかしない」