第79章 晩餐
「ああ、犬!!」
桜里は机を叩いて立ち上がった。
「忘れていました。藤原から手紙が来て、命名を、手配した胡蝶様にお願いした様なのですが⋯⋯」
「何か問題が?」
「ご自分でご覧になってください!」
桜里は手紙を突き出した。宇那手が受け取り、甘露寺も横から覗き込んだ。
──もやし
──かいわれ
──どんな環境でも、強く育ちます様に。
「⋯⋯正気?」
宇那手は、思わず本音を漏らしてしまった。甘露寺は笑い転げている。
「しのぶちゃんらしいわね!! 確か⋯⋯蝶屋敷の金魚の名前は、ふぐらしいわよ。ふくよかに育つ様にって」
「柱って、変人の集まりなんですか?」
玄弥の問いに、時透はほんの少し不快感を表した。
「柱三人の前で良く言えるね」
「概ね事実だと思いますよ」
宇那手は、げんなり返した。
「名前は、実弥さんにも意見を求めましょう。そうすれば、角が立ちませんから」
「兄貴は元気ですか?!」
玄弥は目の色を変えて身を乗り出した。宇那手は、仕方なく、後で渡す予定だった手紙を取り出した。
「私が代筆したものですが、間違いなく実弥さんの言葉です。この言葉を引き出すのに、丸一日掛かりました」
「ありがとう⋯⋯ございます」
玄弥は手紙を受け取り目を通した。
「短い手紙ですね」
「でも、実弥さんが一日悩んで選んだ、本当の言葉です」
──柱の足を引っ張るな。
──火憐の指示に必ず従え。火憐は判断を間違えねぇ。信頼しろ。
「ありがとうございます! 本当に⋯⋯貴女には、救われました。必ず従います。俺も、鬼舞辻との戦いで、貴女の力になります」
「うん」
宇那手は、穏やかに笑みを返した。
「私も、肩の荷が少しおりました。貴方達に、万が一の時の身の振り方を直接お話し出来た。信じています。貴方達なら、必ずやり遂げてくれると。私も、私の任務に集中出来ます。勝算が上がる。ありがとう」