第79章 晩餐
「私、納得してませんから」
すっかり、素の性格に戻った桜里が、切り込んだ。
「これで、師範の任務の危険度が変わったわけじゃありません。安心して死ねると思っているんじゃありませんか?」
「思っていない」
「思っています。姉もそうだった。隊士が家に乗り込んで来て、鬼が殺された瞬間、穏やかに微笑んで、そのまま逝ってしまった。貴女も同じ顔をしています。思い残す事は無いって──」
「私は誰より生きたいと思っている!!」
宇那手は、思わず声を荒げていた。
「死にたく無い!! 生きたい!! でも、貴女だって分かっているでしょう?! 自分だけが生きていても、仕方が無いの!! 愛する人と一緒じゃなきゃ、永遠に生き地獄だって!!! お願いだから、私の指示に従って!!! 一番勝算があるの!!! 私にも、鬼殺隊にも!!!!」
「それは、柱としての命令ですか?」
桜里の言葉に、宇那手は唖然とした。随分前に、宇那手は、同じ趣旨の質問を冨岡に繰り返しぶつけた。
「命令じゃない。⋯⋯そうね。貴女にも選択権がある。従わなくても良い。これは、私のお願いだから。貴女達と一緒に勝ちたいという、ただのお願い」
「上の階級の命令が聞けないなら、隊に必要無いよ」
時透が無感情に返した。
「従わないのは隊律違反。君の薄っぺらい経験と価値観で、柱の命令に従わないっていうなら、辞めれば良い」
「違う⋯⋯。違うの⋯⋯」
宇那手は、両手で顔を覆った。同じ歯痒さを、冨岡も何度も味わった事だろう。
「無一郎君。命令とお願いは違う物なの」
「同じでしょう? どちらも、従うかどうか選べるし。⋯⋯僕、鍛錬をしてから休むね。姉さんはもう眠った方が良い。面倒くさい継子のせいで、疲れたでしょう?」
時透はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
宇那手は、逡巡の後、顔を上げた。
「玄弥君、甘露寺さん。里の皆さんに夕食のお礼を伝えてください。⋯⋯桜里は、私の部屋に来なさい。全てを話すから。その上で、どうしたいか、決めて欲しい」