第79章 晩餐
「結婚⋯⋯しました。でも、相手は置き物じゃありません。最近は良く喋るし、独占欲も強い、少し子供じみた、大人の男性です」
「なんだか面倒くさいね。置き物の方がマシかも」
「酷いなあ⋯⋯。因みに、私は何に見える?」
宇那手は、好奇心全開で訊ねた。時透は少し悩み、口を開いた。
「蜜蜂」
「どうしてかな?」
「小さいのに、必死に働いている。働き者。可愛い。相手が鬼でも、害が無いなら、無闇に刺さない。でも、仲間が危なくなったら、命懸けで戦おうとする。甘い言葉を掛けてくれる」
「的確な例えですね」
桜里は、幾分表情を和らげて評価した。
「お箸、新しい物を借りて参ります」
彼女は席を立った。桜里は、幾らか時透に対する態度を改めた。
宇那手は、一先ずほっとして食事を進めた。
「火憐ちゃん、食べられる様になったの?」
甘露寺が我に返って訊ねた。宇那手は、頷いた。
「私は生きたい。生きるためには食べなければいけません。これまでも食べて来た。いただいた命を無駄にしない為に、食べて、生きなければと思ったんです」
「良かった。心配だったのよ? 食べられない事もそうだけど、どうしてかな? 火憐ちゃん、死んじゃいそうな気がして」
「私、そんなに悲壮感出してました?」
「出していましたよ」
新しい箸を持って来た桜里が、冷たい視線を注いだ。
「”私、不幸だけど頑張って笑っています”って感じが凄かったです。辛いなら辛いと言えば良いのに。あの置き物は、四六時中”自分、不幸です”って葬式みたいな顔をしているのに、貴女は笑っているから、痛々しかった。貴女の周りで何が起きているのか、全く分からず不安になりました」
「桜里⋯⋯。えっと、貴女、そんなに言葉が⋯⋯」
「私は元々こういう性格です」
桜里は座り直して、目を伏せた。