第78章 月下の約束
「忘れない。夫婦になると言っただろう」
冨岡は宇那手の瞳を覗き込んだ。
「お前にしてやれる事は、もうそれしか無い。許してくれ」
「それ以上謝ったら、引っ叩きます」
宇那手は、クスクスと笑って冨岡に全身を委ね、目を閉じた。
「幸せです。何時か終わると知っているから、より尊いと思えます。私が傲慢にも、当たり前の生活が永遠に続くと考えていなければ、両親との暮らしも、違った物になっていたかもしれない。⋯⋯幸せです。ありがとうございます」
微笑んだまま、宇那手は、静かに眠りへ落ちて行った。
(幸せなのは、俺の方だ)
冨岡は、宇那手をベッドに横たえ、布団を掛けてやった。
(振り払おうと冷たく接しても、無茶な稽古を付けても、泣き言一つ言わずに、必死に後を追って来た。男でも堪えられない様な道を、共に歩んでくれた。家族を与えてくれた)
例え宇那手を連れて帰れなくても、今、冨岡の屋敷には、沢山の隊士がいる。宇那手だけでなく、冨岡のことを案じてくれているのも分かる。一人になる事はない。
(家族全員、守り通す。だから、無事に戻ってくれ)
冨岡は、最後に一度だけ宇那手と唇を重ね、部屋を後にした。