第78章 月下の約束
「お前を、愛していたから、か?」
冨岡の言葉に、宇那手は、嬉しそうに深く頷いた。
「分かってくださった⋯⋯。そう⋯⋯。実弥さんは、ご自身よりも、私や貴方の気持ちを尊重してくださった。とても優しい人です。愛情深い人です。私には真似出来ない。⋯⋯嬉しいです。貴方が、気付いてくださって。安心しました。きっと、実弥さんとも仲良くなれます」
「⋯⋯⋯⋯っ」
冨岡は、宇那手の手を振り払い、両手で顔を覆った。
(何故こいつは、何時も人の事ばかり!! これから上弦と戦うというのに!!)
後悔ばかりが押し寄せて来た。もし、出会ったその日に育手に紹介していれば、もっと安全に隊士になれたはずだ。
いや、無理矢理にでも叔母の家に預けていれば、普通の娘として生きて行けただろう。
継子にすると決めたその日に、明るい屋敷を所望し、家人を増やしていれば、楽な生活を送れたはずだ。
自分では無く、他の柱が継子にしていれば、もっと⋯⋯もっと幸せな時間を過ごせただろう。
「⋯⋯お前は⋯⋯まだ俺を愛していると言うのか⋯⋯」
「愛しています」
「それは、妄執だ! お前は他に頼れる者がいなかったから、俺に執着した! よく考えろ!! お前──」
「義勇さん」
宇那手は、静かに微笑んでいた。
「私が、こんな事を言うのは、おこがましいかもしれません。ですが、貴方が楽になれるのであれば。私は貴方を許します。貴方の不器用さも、鈍感さも、全部許して、愛しています。だから、私の感情を否定しないでください。貴方を愛する事を、許してください」
「⋯⋯すまない。酷いことを言った」
「許します」
「許さなくて良い!」
「許します」
宇那手は、冨岡の両頬を包んだ。
「私は、貴方の全てを許し、愛しています。以前、貴方にお伝えしました。私が死んだら、私の事を忘れて欲しいと。⋯⋯酷いお願いをする事を許してください。忘れないで欲しい! ずっと、ずっと傍にいますから! この命が無くなってしまっても、姿が見えなくても、ずっと貴方の傍にいます!! だから、どうか⋯⋯」