第12章 唯一の友
先に姿を現したのは、甘露寺だった。彼女は宇那手の頭を撫でた。
「ありがとう、火憐ちゃん。貴女は嘘を吐かない人。私の髪の色を、素敵と言ってくれた。ありがとう!」
甘露寺は、変色した髪色のせいで苦労をして来た。自分を押し殺して生きて来たのだ。奇異の目で見られ、一時は黒く染めていた。
ほぼ初対面の宇那手は、一切否定せず、ありのままの姿を受け入れ、桜餅を分けてくれた。
そして、数秒経ってから、不死川が姿を現した。彼は冨岡と宇那手のやり取りも聞いていた。そのせいで、喉が塞がった様に、言葉が出なかった。
代わりに、宇那手が前に進み出て、袖から瓶を取り出した。
「胡蝶様に頂いた、薬です。傷口に塗布すれば、水を弾きます。あまり傷を増やさないでくださいね?」
「おう」
不死川は短く答えた。
話が終わったと判断した産屋敷は、小さく頷いた。
「少し、退がっていておくれ。火憐に話がある」
彼は、不死川と甘露寺が遠ざかる気配を確認してから、声を落とした。
「一つ、手掛かりをあげよう。鬼舞辻は、私と同じ容姿をしている。義勇は、この病が顔に広がる前の状態も覚えているね? 遭遇したら、今は徹底的に逃げる様に」
それは、他の柱に対して出した命令と、真逆の物だった。
「火憐なら、理解出来るね。鬼舞辻は、その時が来れば、自ら姿を表すはずだ。その時には、君の力が必要になる。勿論私も命を懸けて戦う。だから、火憐の力も貸して欲しい」
「勿論です。⋯⋯お約束通り、後も引き受けます」
「うん、頼むよ。信じている」
産屋敷は、頭を下げた。冨岡は、産屋敷のそんな振る舞いを始めて見た。絶対的な支配者の信頼を勝ち得た宇那手に、遂に確信を持った。
──彼女は継ぐ事の出来る人間だ、と。