第12章 唯一の友
「立っておくれ」
産屋敷は、娘に導かれて、宇那手の両手を取り、立ち上がらせた。
「面をあげて。試す様な真似をしたことを、許して欲しい。もう私に礼は必要ない。お前は⋯⋯君は、私の生涯に於いて、唯一の友なのだから」
「⋯⋯その様なお言葉」
「私は鬼を滅するためだけに生まれ、鬼を滅する者達の頭として育てられた。君の心からの否定は、私に戦う覚悟を与えてくれた。最期の一押しをしてくれた。心から、感謝しているよ。私の代で、全て終わらせよう」
「⋯⋯私は⋯⋯私は⋯⋯」
宇那手は、産屋敷の手を握り返し、震えた。元々終わりの近い命を、彼が自ら縮めようとしている事が分かった。
誰にも悟られない様に。細く長く燃えて行く筈の蝋燭を、灼熱の炎に投げ込む様に。
「私は、どうしたら良いですか? 今すぐ無惨を殺しに行けば、貴方は⋯⋯」
「そんなことは、望んでいないよ。私も、義勇も。ただ、可能な限り、此処へ足を運んで欲しい。私は外へ出られないからね。また、取り止めの無い話を聞いて欲しい。あまねも、君のことを礼儀正しい良い子だと言っていた。遊びに来ておくれ」
「はい! お手紙もお送りします」
宇那手が声を振り絞って答えると、産屋敷は冨岡に顔を向けた。
「私の友をよろしく頼む。強くて賢い子だけれど、優しく、人の痛みに共感出来る。傷付いて泣く事もあるだろう。支えてやっておくれ」
「御意」
冨岡は、更に深く頭を下げた。産屋敷は、左右に顔を向け、笑みを深めた。
「実弥、蜜璃。何か伝えたい事があるのなら、来なさい」