第78章 月下の約束
「お前はどれだけ厳しい稽古も、堪えた。俺の雑な扱いに文句一つ言わず、必死に着いて来た。その上俺の為に死んでも良いとさえ言った。何も無かった俺に、先に与えてくれたのはお前だったんだ。許してくれ⋯⋯。もっと早く、お前に、愛していると言いたかった」
「⋯⋯師範は、最初から私を愛していました」
宇那手は胸に手を当てて思い返した。
「どんな種類であれ、愛情がなければ、傍に置きはしなかったでしょう。貴方がくれた指示のお陰で、私は転がり落ちそうな心を、繋ぎ止める事が出来ていました。理解出来なくとも、愛を感じていたから、貴方の指示に従い、生きて来れたんです。私の方こそ、貴方の行動や言葉、表情の裏にある想いを汲み取れず、歯痒い思いをさせてしまったと後悔しています。出来る事なら、出会いからやり直したいくらいです。もっと可愛げのある娘として、貴方と出会いたかった。もっと⋯⋯もっと愛していると伝えたかった!! 義勇さん!! 義勇さん!!」
彼女は溢れる感情を制御出来ず、冨岡にしがみついていた。
「ずっと、こうしていたいです!! 離れたくない!! 私⋯⋯きっと、貴方を愛する為に生まれて来たんです!! 鬼を殺すためでも、家族を奪われる為でもない!! 貴方を愛する為に──」
「愛されるために、だ。愛している」
冨岡は、宇那手をひしと抱き締めた。そして、額に唇を押し当てた。
「全て終わったら、静かに暮らそう。小さな屋敷で、手の届く範囲で」
「⋯⋯はい」
宇那手は、少し疲れた様子で冨岡の胸に寄り掛かった。
「義勇さん。最期の我儘を訊いてくださいますか?」
「今日は、その為に来た。何でも訊く」
「このまま、眠らせてください。ずっと思っていたんです。貴方の腕の中で死ねたら、幸せだと。だから、このまま、傍にいてください!」
「分かった。だが、風邪を──」