第77章 竈門禰豆子
「⋯⋯その薬、今、禰豆子に使う事は出来ないんですか?」
炭治郎の問いに、宇那手は顔を伏せた。恐らく訊かれるであろうと予見していた、最も難しい問いだ。
「竈門君。私たちを信じてくださいますか? 私が信じられなければ、命を張っている冨岡さんを信じてください」
「勿論信じます! 何か事情があるんですね?」
「鬼舞辻は、日光を克服した鬼が現れれば、血眼になって喰おうとします。私は、禰豆子さんの情報を取引に使える。鬼殺隊は命を懸けて禰豆子さんを隠します。近い内に、上弦が更に二体欠ける算段です。向こうも自由に動かせる鬼の数が限られて来る。鬼舞辻が禰豆子さんを探している間、鬼殺隊は鬼狩りに費やしていた時間を、稽古を行う事が出来る。そして、鬼舞辻に使う毒が完成した時、一斉攻撃を仕掛けます」
「つまり⋯⋯禰豆子を餌に⋯⋯」
「理解してください」
宇那手は、一転、厳しい口調で釘を刺した。
「禰豆子さんが人を襲わない保証は、やはりありません。鱗滝様の暗示と、私の血の効力頼みです。貴方が死んだ後も、今と同じ様に、人間の為に戦い続けられるか、一切保証がない。その存在を、鬼殺隊は容認しているんです。はっきりと自我を取り戻していた珠世さんを見逃した、始まりの呼吸の剣士は、鬼殺隊を追われました。対して君はなんの処罰も受けずに、見逃されている。こちらも譲歩し、最大限配慮をしています。本来であれば、禰豆子さんの護衛をする隊士も鬼舞辻討伐の戦力にしたい。分かっていただけますか?」
「⋯⋯わかりました」
炭治郎は、眉間に皺を寄せて答えた。宇那手は、悩める少年の肩に手を置いた。
「君には、妹の他にも大切な人がいるでしょう? 守りたければ、視野を広げなくてはならない。最も犠牲が少なく、後悔の無い道を選べる様に、精進してください」