第77章 竈門禰豆子
「君のせいじゃありません」
宇那手は、笑みを浮かべた。
「苦しいのは、私が弱く、未熟なせいです。迷ってはいけないと分かっているのに、考えてしまう。君は嫌悪するかもしれませんが、私は鬼舞辻無惨も救いたい。そのためには、苦しくとも、誰に望まれなくとも、生きて行かなければならない」
「望まれています」
胡蝶は、宇那手を抱き締めた。
「貴女は、鬼殺隊に入隊し、多くの人と出会い、生きる事を望まれている。私も望んでいます。お館様も、冨岡さんも、柱の皆さんも、貴女の継子も。貴女は沢山の人に愛され、生きて欲しいと思われている。どうか、生きて。後ろを向かないで」
「はい」
宇那手は、なんとか呼吸を整え、姿勢を正した。
「しのぶさん、櫛を貸していただけませんか? 禰豆子さんの髪の毛、綺麗にしてあげたいので」
「構いません。こちらでよければ」
胡蝶は袖から櫛を出し、手渡すと、感情を察知して立ち去った。宇那手は、炭治郎と向き合った。
「少し話をしましょう。継子の君には、私自身の事をお話ししなければ。これまで、どうやって生きて来たのか」
彼女は再び部屋に入り、禰豆子を座らせると、丁寧に髪の毛を梳かし始めた。
宇那手は、まず、家族の事を語った。
「⋯⋯母は、目眩しの叔母一家と、自分の家族を天秤に掛けて、本分を全う出来、最も犠牲の少ない道を選びました。私は、共に死ぬ事を望まれていた。血の繋がった家族、誰一人として、私が生き残る事を望んではいなかったんです。だけど、私は生き残るために最善の行動を取り、冨岡さんに助けていただいた。⋯⋯長い間、私は自分で物事を判断する事が難しい状態でした。冨岡さんの指示が絶対。私を生かした、冨岡が、私の全てでした。鬼を殺す事と、冨岡さんを守るためなら、なんでもやった。冨岡さんが死ぬくらいなら、私が死んだ方が良いとさえ思っていました」