第77章 竈門禰豆子
翌日、宇那手は、炭治郎と胡蝶の立ち会いの元、初めて鬼の禰豆子と対峙した。
(確かに、普通の鬼とは気配が違う。姿も人間に近い)
「禰豆子さん」
宇那手が呼び掛けると、少女の姿をした鬼はゆっくりと手を伸ばし、宇那手に抱き着いた。
「⋯⋯これは、どういう事ですか?」
「多分、家族の誰かだと思っているんです。母さん⋯⋯かな」
「そうですか⋯⋯」
宇那手は、禰豆子の頭を撫でてやった。それから、恐る恐る口枷を外し、彼女の瞳を覗き込んだ。
「禰豆子さん。お兄さんを守るために、私の血を飲んでください」
宇那手は、シリンジに少量採取して置いた血液を鬼の娘の手の平に垂らした。
「これは、人間を傷付ける事に、当てはまりません。大丈夫。飲んで」
禰豆子は、鬼の習性からか、躊躇わずに血液を口に含んだ。そして、目を大きく見開いた。
「火憐さん!」
胡蝶が警告の声を発したが、禰豆子は凶暴化しなかった。ただ、炭治郎と宇那手を一緒に抱き締めた。その目からは大粒の涙が溢れていた。
「お⋯⋯お⋯⋯にい⋯⋯ちゃ⋯⋯」
「禰豆子! お前!!」
炭治郎は感極まって妹の顔に釘付けになった。
「あ⋯⋯う⋯⋯」
禰豆子は、それ以上言葉を発する事が出来なかった。
「竈門君。念のため口枷を」
胡蝶が割り込んで、竹を噛ませた。宇那手は、酷く動揺して、口元を覆っていた。炭治郎は気付かず、妹の変化に喜んでいたが、胡蝶は宇那手を支えて立ち上がらせた。
「大丈夫ですか?」
「私⋯⋯私っ!!」
宇那手は、部屋を飛び出していた。
あの日、ほんの僅かだが、父も自我を取り戻し、宇那手を認識していた。
(私が殺さないでと言っていれば、違っていたの⋯⋯? 珠世さんの元で治療を受けている方も自我を取り戻しつつある。私が判断を誤ったから)